SLASH! 1st Recording Review

 

 98年3月に結成した「SLASH!」。一年余りのライブ活動を経て、ファーストアルバムの録音を完了しました。その内容をレポートしてみたいと思います。この御時世アルバムを出すということは、そう簡単なことではないのです。我々の場合は、トコさんとの活動を通じてのイーストワークス・エンターテイメント及び社長の守崎氏との出会いがなければ、レコーディングの実現はまだまだ先の事だったかもしれません。その意味で、このアルバムはトコさんのおかげで世に出ることになったと言ってもいいでしょう。このアルバムをトコさんに捧げたいと思います。トコさん、ありがとう!!


 二年前に出した私個人のアルバム「THE GIG」は、私がリーダーであり、大西順子との共同プロデュースではあるものの基本的に私のサウンドを世に問うという性格のものであった。だが、今回のSLASH!というバンドは今やバンドのメンバー全員がリーダー、いわゆるバンドプロデュースというのが最大の特徴だ。そのため、今回特にプロデューサーは置かずバンドプロデュースを全面に押し出すこととなった。さすがイーストワークスさん太っ腹、「二日間スタジオだけは押さえたから、あとは好きにやりなさい」との社長の頼もしい一言。ミュージシャンにとってはこれほど嬉しいことはないと同時に大きなプレッシャーもかかる。出来上がったものがイモだったらどうしよう...
 でもこのSLASH!のメンバーは全員素晴らしいセンスを持っている。自分が持っていった曲が、リハーサルやライブを経て自分が思いもつかなかった方向に発展していったケースがいくつもあった。全員のアイデアを結集すればすごいことになるという予感がレコーディング前からしていたのだ。果たして、直前のリハーサルでは出るは出るはアイデアの山。これは当日が楽しみだ...


 [DAY 1]

 そして迎えたレコーディング当日。「THE GIG」のレヴューを御覧になった方は覚えておいでだと思うが、あの時は初めてのリーダーアルバムということでかなり緊張していた。「妻に見送られて云々...」のくだりでは内助の功を讃えられたりしたものだが、さすがにキャリアを積んでくると妙な力は抜けていき、所詮今の自分以上の事はできないんだ、といういい意味での開き直りが出てくる。
 銀座の音響ハウスに午後3:00ごろ到着。やはりミュージシャンは朝が弱い。午後4:00からの開始、というのは非常に有り難いのだ。実はこの日17日はわれらがトコさんのお葬式の日。出席するとぼろぼろになるのが目に見えていたので、前日のお通夜に出席、少し演奏もさせて頂きながらトコさんを偲んで多くのミュージシャンと酒を酌み交わした。部屋に戻ってもすぐに眠れず、一人でワインを飲んだ。少し飲み過ぎたかな?と思ったが、入りの遅いレコーディングで助かった!!トコさん見守ってて下さい!
 

 続々とメンバー到着。う〜ん、いいね〜この緊張感の高まり!武者ぶるいがする。今回のレコーディングの一つの特徴は、フェンダーローズ、エレクトリックベース、そして二つのドラムセットの使用であろう。もともとSLASH!の最初のコンセプトが「ビートにこだわらないジャズ」なのだから、こういう選択肢は当然と言えば当然なのだが。それだけ幅広い音楽性を身につけたメンバー達だからこそこのやり方ができるのだ。
 レコーディングエンジニアは広兼氏。EWE(イーストワークス)の作品を数多く手掛け、最近では綾戸智絵さんのアルバム制作にかかわっている。写真をごらんになってわかるように、甘いマスクの持ち主。しかし音に関しては相当「きれる」人のようだ。SLASH!のようにスタイルが多岐にわたると(ジャズにしては、かな?)録る方も大変だろう。でもどんな音になるか楽しみだ。
 

 セッティングも終わっていよいよ音出し。まずはグループ名を冠した僕の曲、「SLASH!」から。バンド結成当初からのレパートリーで、ライブでは結構「イッちゃう」曲だ。しかしこのレコーディングでは小粋な仕掛けがあります。お楽しみに!
 サウンドチェックも終わり、さっそく「SLASH! 」(Tada)録音。個人的にはちょっとだけ緊張気味だったが、問題無くオッケー。サクサク行くためにも、一曲一曲あまりごちゃごちゃ言っていられない。このバンドはレギュラーグループだし、基本的に今までライブで消化してきたものを録音するつもりなので、1テイクOKを基本としたい。トコさんの「TAC-TIC」(レコーディングレヴュー参照)のレコーディングを理想としてがんばるぞっと!

 続いて今泉氏の美しいワルツ「Pure Eyes」(Imaizumi)。ここで少し問題が...バンド全員が納得のいくテイクというのはそうはない。アンサンブルがうまくいってもソロが気に入らないとか、その逆とか。作曲者の意図が反映されないとか。これがたとえば僕の単独リーダーアルバムなら話は簡単。最終判断を下すのはリーダーなのだ。しかし今回のレコーディングはバンドプロデュース、つまりメンバー全員による合議制でなければならない。詳しい話を述べるのは避けるが、最後までテイクが決まらなかったのがこの曲だ。最終的には作曲者の判断で決定。なんとか発売前の解散は避けられた?!

 そして僕のバラードナンバー「June Bride」(Tada)。この曲は全編ルバートによるインタープレイが売り。メンバー間のコミュニケーションが不可欠だ。レコーディングの全員がブースに入った状態でどのくらいうまくコミュニケートできるか心配していたが、その心配は杞憂に終わった。僕的にはこれまでのライブも含め、この曲に関してのベストテイクが録れたと思っている。この曲を結婚式で吹いてもらいたい方は是非御一報を! (June Brideを「乾杯」に次ぐ結婚式チューンにする会より)

 江藤良人のオリジナル「Deep Sea」(Eto)は、彼の敬愛するエルビン・ジョーンズの香りがする佳曲だ。ここで杉本氏、なんとエレベにトレモロのエフェクトを掛けた!しかも今さんはフェンダーローズの前に!う〜〜〜ん、70年代!って感じかな?しかも江藤氏のリクエストでSopranoのソロにも面白い仕掛けがしてあります。ヒントは「二人羽織り」???
 

 ここまでは全部Soprano Saxによるバージョンだったが、Altoに持ち替えるためここでブレイク。食事休憩をとることに。考えてみればこのアルバムのほぼ半分をSopranoでやることになっている。Altoをメインにやってきた僕にとって初めての試みだ。ちょっと嬉し恥ずかし、って感じ。でも「タダセイ」の新境地を開拓できるかも。お楽しみに。

 ここで我々の友人の美人姉妹が差し入れを持って来てくれた。な、なんとお鮨〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!しかもとろけるような大トロ!!へっへっへ、ミュージシャンやってりゃたまにはいいこともあるのよ。しかしミュージシャンって物やお金に弱いね(え?僕だけ??)。

 休憩後、急遽江藤君が当日になって持って来たフリーの曲「JOY」(Eto)にトライ。この人はドラマーだからこそなのだろうかユニークな曲を書いてくる。この曲も非常に自由な感覚で書かれた曲で、やってみると超おもしろい!で、収録することに決定。ただし、これもただダラダラやったわけではございません。へへへ、これまた発売までのお楽しみ〜〜〜!!!
 

 そしていよいよ一応本日の最後の曲(このあとドラムセットをチェンジするため)の予定の「Highway in the Night」(Imaizumi)をやることに。今泉氏作曲のこのアップテンポの曲はテーマが非常に難しく、サックス泣かせだ。だから、というわけではないが、テーマは最後だけにしてほぼ全編を僕と江藤君のデュオにすることに。ドラムとのデュオは僕のもっとも好きなやり方だが、レコーディングでは初体験。最初のテイクはやや力が入り過ぎて、けんかしてる感じになってしまった。これに関しては妥協したく無いので、もう一回やってもらう。今度はいい入り方だ。だいたいこういうものは、導入部で出来不出来が決まると言っても過言では無い。いい感じで最後のテーマを迎えることができた、と気が抜けた訳では無いのだが、テーマの一番最後の部分で僕がミス!!できればテーマの部分だけ差し替えたい、と思うのが人情でしょ?でも、プレイバックを聴いてみるとそのミスがまたなんとなくいい味を出している、とバンドの皆さんがおっしゃるですよ。うん、まあ言われてみればそうかな〜と優柔不断な中間管理職「タダセイ」は、皆さんの意見を尊重したですよ。今ではあの選択は間違っていなかったと確信してるけど。(ちなみにジャズライフ7月号のレコーディングレポートで、このエピソードがBrother "B"になっていますが、Highway〜の誤りです。編集部になり替わりお詫びして訂正します。)


 [DAY 2]

 さて、迎えた二日目、楽器の持ち替えの都合からまずFLUTEものを録音することにした。ALTO SAXとFLUTEは、見た目は金管だが分類としては木管楽器になるのを御存じだろうか?なんとも不思議な感じだが、おそらくもともとFLUTEやCLARINETが木管だったことからそれに類する発音方式を有する楽器を同じ分類にしたのではないか、と思われる(音大で勉強したわけではないので定かではない。違ってたらゴメン!)。SAXはかなり新しい楽器であり、発明当初から金管でできていたが、リード(葦の茎を削ったもの)を振動させて音を出すので木管楽器に分類されたようだ。

 話がそれたが、FLUTEとSAXを持ち替える(ダブリングという)ようになったのはなぜだろう?全く違う発音方式なのだが、指使いが似ているという理由からか(??)ビッグバンド黎明期からSAX奏者がFLUTEもしくはCLARINETに持ち替えるのが習慣化した。私はもともとFLUTEから出発しているので、持ち替えにさほど苦労しなかったが、それでもSAXを思いっきりブロウしたあとにFLUTEを吹くのはかなり厳しくしびれるものだ。FLUTEは唇で穴を作り、そこから出た息を楽器の壁にぶつけて音を出すので、唇がばてていたり荒れていたりするとそれが音にてきめんに出てしまうのだ。したがってハードなSAXの曲は後にして、FLUTEものからやることにした。

 一曲目は僕のオリジナル「Shall We Dance till Dawn?」(Tada)。元NHK-FMの「SESSION'99」の司会の立子山さんの名訳「夜明けまで踊ろう」が忘れられないこの曲は、ボサノバのリズムの、けっこう自分の中ではムネキュンのメロディーのつもりの曲だ。当初はAltoで演奏していたのだが、レコーディングを機にFLUTEでやったらどうだろう、と思い付き、みんなでいろいろリズムやパターンを研究して臨んだ。評論家の河原さんに言わせると、この杉本のグルーブ感はただ者ではない、とのこと。うん、たしかに彼のセンスがきらっと光るテイクです。ところで、この曲にコンガが入っているのに気付かれました?この曲こそ江藤の記念すべきパーカッションデビューなのだ!!

 コンガやハモリのオーバーダブを終え、次の曲「Tomorrow's Song」(Imaizumi)に突入。これは今泉さんの比較的新しい曲で、まだあまりライブでもやっていない曲だ。Sopranoを使ってやっていたのだが、メンバーのアイデアでFLUTEを使うことに。幻想的な雰囲気を出すのにはFLUTEという楽器はぴったりだ。しかしただFLUTEを使いました、ってんじゃ当たり前でつまらない。ここはSLASH!らしさを出さない手はない。そこで杉本君の登場。「3種類くらいのディレイ使いましょうよ。マスタリングの時に使い分けてかければいいから、とりあえず1種類だけかけて録音しましょう。」は〜、そういう事もできるのね、最近の技術はすごいのね、とアナログなあたしはただ感心するのみ。
 江藤の「チキチキチキチキ...」のイントロから始まって、徐々にFLUTEが絡んでいくとこなんて気持ちいいよね。しかもディレイがかかっているので、自分でも楽しくって楽しくって。あんまり楽しいので途中で叫んでしまいました、しかも二回も!クレジットのSakebiってこのことなのです。お分かり??もちろん1テイクでOK。エンディングのエフェクトもお楽しみに!!

 FLUTEものがこれで終わって休憩。ここできのうに続ききょうも登場、美人姉妹のお姉様のほうが差し入れに。きょうは、な、なんとウナギ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!魚が苦手な江藤以外は(かわいそうに!)狂喜乱舞。これで精力つけて残りのテイクに全力を注ぐぜ!!しかもきょうは、僕達の仲間の美人タップダンサー宇川彩子ちゃんが応援に来てくれた。いやあ、全くミュージシャンは美人に弱い!みんなはしゃぐことはしゃぐこと...あと2曲、がんばれそう。

 残る2曲はアルバムのハイライトになるSLASH!らしい曲。ファンク、ヒップホップといった感じを融合した「Brothe "B"」「Hacker」(Tada)だ。どちらも僕の曲で、Hackerはバンド起ち上げのときからの曲。Brother "B"は敬愛するブランフォード・マルサリスに捧げた曲。どちらもライブでさんざんやっている曲だが、レコーディングではHackerでフェンダーローズを使ったりしてサウンドがまたがらりと変わった。「70年代風のサウンドが斬新」といろんなレコード評で書かれたが、自分達の中ではそんなに意識したわけではなく、ここでローズ使うとかっこいいよね、くらいの意識だったと思う。ま、良くいえば僕達の感覚が時代とマッチしてた、ということかな(エヘン!)。
 Hackerで2テイクとって少し苦労したが、基本的にはスンナリ終わって全曲終了!!みんなお疲れさま!こんなに楽しいレコーディングは初めてだ。音作りも含めてとっても勉強になったし、メンバーの隠れた才能やセンスにも触れることができた。SLASH! は素晴らしい!自信を持ってみなさんにお勧めします。ぜひCDとライブの両方をお楽しみください。

お疲れ様でした〜〜〜〜〜〜〜〜!!

(左から今サン、江藤、おすぎ、タダセイ)


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