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[Day 1]
2002年1月30日、the MOSTの二枚目のアルバムレコーディングが行われた。場所は前回と同じ銀座オンキョーハウス、日程も全く同じ1/30,31の二日間。何か因縁めいたものを感じる。
一年に一枚というのは自分としては異例のハイペースだ。これまで最初のアルバムからほぼ二年ごとにレコーディングしているが、全て違うバンド&メンバー。コンセプトも全く違う三枚のアルバムを出した。「飽きっぽい」といえばそれまでなのだが、なぜか同じバンド・コンセプトによるものを出したことがなかった。それだけ今回のこのthe MOSTというグループが、可能性にあふれ、またやりがいのあるバンドだったということだろう。出すべくして出す、そういう自然な形でレコーディングが決まった。
最初のレコーディングからベーシストが替わった。オリジナルメンバーの塩田哲嗣が何年かの単位で活動の場をアメリカに移すことになり渡米してしまったためだ。新ベーシストは上村信(かみむらしん)。名古屋梁山泊派(ちなみに僕は目黒熱情派だそうな...)の一人で、大坂=原QUINTETのレギュラーベーシストを長年に渡り務めた実力者だ。僕とも当然長い付き合いだが、レギュラーの形で共演することはほとんどなかった。いつか一緒にやりたい、と思っていたのが実現し、とてもうれしい。
ベーシストが替わったことで当然バンドサウンドにも若干の影響が出てくる。良い、悪いではなく、その人の個性が出るのが音楽・特にジャズだ。塩田哲嗣のストロング・ごりごり系から、上村信の的確・リリカル系へ移行した、ということに一言でいうと、なる。そして、そんな信ちゃんを生かすには、ピアノの石井彰の占める割合を、より増やした方がよい、と判断した。結果、今回のアルバムではピアノレスは二曲のみ。ほぼレギュラーメンバーとして石井彰に参加してもらうことにした。
メンバーチェンジ後数回のライブを経て、全く違和感なくthe MOSTに溶け込んだ信ちゃんを見て、ひと安心。大坂昌彦が全幅の信頼を置いているだけあって、リズムが実に安定している。即レコーディングを決意し日程を押さえたところ、奇しくもメンバーの合う日が去年と同じ1/30,31になったのだ。これはやはり縁でしょう???不思議なものだ。
レコーディングはいつもどおり13:00からサウンドチェック開始の予定。ローディーの小倉君が11:30に自宅に迎えに来た。12:30ごろスタジオ到着。一番乗りのようだ。バンマスの面目がたった。EWEの高見さんもすでに来ている。彼は何枚ものレコーディングを抱え殺人的なスケジュールに追われており、the MOSTに関しては信頼してくれているのかほとんど野放し「好き放題やってください、スタジオはおさえてありますから」状態。我々ミュージシャンサイドからするとこれほどやりやすいことはない。内容について一切口を挟まないというスタンスをSLASH!の時から取ってくれていて、感謝。今回も好きにやらせてもらいまっせ〜(なんで気合いが入ると関西弁なんやろってまた関西弁やんかってまた...)。
エンジニアは毎度おなじみ広兼氏。SLASH!、Club TOKOシリーズ、the MOSTなど、EWE関係のアルバムではずっとお世話になっている人だ。優しい笑顔が特徴だったが、会ってみると髪型のせいか硬派に変身か??と思うほど印象が変わっていた。前回のレコーディングをとても気に入ってくれていて、今回も楽しみにしてくれていたらしい。今回もええ仕事たのんまっせ!!
13:00ごろメンバー続々到着。石井彰だけが熊本から直入してくるので15:30ごろの到着になる。したがってピアノレスものから先に録っていくことにする。今回もそれぞれブースに入っての録音。なんとピアノ・ベースとアイコンタクトが取れない!!ベースはかろうじてテレビカメラ越しに見えるがピアノが全く見えない。これは阿吽の呼吸なくしては絶対成功しないだろうなあ...と2.5秒ほど不安になるタダセイであった。
サウンドチェックも順調に進み、14:00すぎ録音開始。さあいよいよだ!!今回も難曲探検隊、出発進行!!
ピアノレスの最初に選んだのはmasa作「Everything」。ミディアムテンポでmasaのブラシワーク、信ちゃんのベースをフィーチャーする。実はこの曲、ある超有名スタンダードナンバーのリメイクだ。同じコード進行だが、メロディーは原曲のかけらもない不思議なもの。リー・コニッツやレニー・トリスターノあたりがやりそうな手法だ。原曲おわかりのかたはメールで答えを送ってみてください。当たってたら「よかったね!」って返事書きますから。
冗談はともかくいい感じで2テイク録って、最初のほうを採用。実は僕、この曲大好きなんです。コード進行は同じなんだけど、このテーマを吹いたあとのソロというのは、原曲をやるのとは絶対に同じにならない。前作のSome Of The Things I Haveでもそうだし、オーネットコールマンのJayne(Out Of Nowhereのチェンジ)などでもそうだし、テーマが違えばソロは変わってくるものなのだ。いかにテーマが大事かを再認識した。とっても自由に演奏できたテイクだ。
次に僕の曲「Feast After The Festival」に突入する。さて、きょうの難曲一号(誰だ?変なこと想像してるのは!)だ。テンポはミディアムアップくらいの小粋な感じなのだが、ちょっと仕掛けがしてある。楽器をやる人は謎解きしてみてください。ライブのときはなかなか納得いかないことが多い曲なのだが、集中力のおかげだろうか、この日はとてもスムーズに進み、たしかワンテイクでOKだったと思う。うん、いい感じ!
とここまでピアノレスを録っている間に石井彰登場。熊本からの旅帰りだが、疲れも見せずウォームアップを始める。ピアノのマイクセッティングの間、今回も差し入れを持参してくれた裏バンマス小川もこさんと談笑しつつ美味しいオードブルに舌鼓をうつ。あ〜ワインが欲しくなるようなものばかり...さすが飲んべえの差し入れ(爆)。でもありがたや〜〜〜 終わったらシャンパン浴びるぞ!!
さて、サウンドチェックも無事終わりピアノ入りバージョンの録音開始。この時点で時刻は16:00すぎ。きょうの予定はあと三〜四曲だが、録れるだけ録って明日を余裕を持って迎えたい。だが難曲はまだまだ続く。どうなることやら...
QUARTET最初の曲は上村作「TONE」。信ちゃんが曲を持ってきてくれるとは。とてもうれしかった。しかもいい曲を書くんだなあ、これが。で、このタイトル、英語の「音」の意味のトーンではなく日本の「利根川」のトネらしい。どういう思い入れがあるのかは詳しく聴いていないが、サウンドはまさしく雄大で優しい利根川、という感じでとてもいい。アップテンポのドラムに乗せて、あくまでゆったりと流れるベース・アルト・ピアノの奏でるメロディー。信ちゃんの人柄というか、優しさが出ている名曲だと思う。これなどもライブでは一度も演奏することが出来なかった曲なのだが、全員信ちゃんの思いをそれぞれに解釈し素晴らしい内容に仕上がったと思う。今までのthe MOSTにない一面を開拓したということで、ある意味このアルバムのハイライトになるかもしれない。ほぼワンテイクで終了。いいペースだ。
[ジャズ界のジャン・レノ、寡黙なナイスガイ信ちゃん]
次の曲は当初の予定では石井彰の作品をやることになっていたが、信ちゃんの曲のサウンドが頭に残り影響がでそうなので急遽masa作「The Most Dangerous Zone」に変更する。レコーディングに際しては、とにかく新鮮な気持ちで曲に向かわねばならない。そのためには録音する順番も非常に大切になってくるのだ。
このmasaの曲はいかにもthe MOSTらしい骨太系の曲だ。タイトルからわかるように、あのテロ事件に触発されて出来た曲のようだ。これも一度もライブではやっていない。それだけに新鮮。だが難しい!テーマの部分のピアノとベースのユニゾンなど、いかにもコンテンポラリージャズ、という感じの曲で、さすがに全員手こずる、かに思われたがところがどっこい!!びっくりするほどぴったり揃う。やはり各人の技量が物をいうのだなあ、と感心。2テイクほどでこれも完了。ピアノソロに入るところと、アルトとドラムのデュオがハイライトです。アルバムの頭を飾りそうな予感が...
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バーンアウトしたところで改めて石井作「Everything I Know」をやる。前作でも「Sometime in the Snow」という名曲を提供してくれてthe MOSTのサウンドに一服の清涼剤を加えてくれた石井君だが、今回もごきげんな曲を提供してくれた。バラードのようでもあり8Beatのようでもあり...不思議なサウンド。ライブを重ねるとかなり面白い展開が期待できそうな曲だ。これも一度もライブに掛けていない。ライブと違ってレコーディングの場合時間の制約があり、ソロの作り方が大変むずかしい。逆に言えば、CDならではの作り方もできるわけだ。エッセンスだけを抽出していいものに仕上げるやり方を、僕なりに学んでもきた。この曲もそんな感じに仕上がった。ライブとの違いを楽しんでもらいたい一曲だ。
QUARTETバージョンも快調に進み、ここで食事休憩に入る。ちょうどALTOからSOPRANOへ持ち替えるタイミングでもあった。まだ19:00ごろ。まだまだ余裕がある。安心して食事ができるってえもんだ。N村屋のお弁当を取る。だが、masaは冷しゃぶ弁当を頼んだつもりが「激熱しゃぶ弁当」が届きやや不満顔。石井彰もご飯に石が入っていると言って怒っている。あらあら頼みますよ〜N村屋さん〜こんなとこで機嫌を損ねられるとバンマス困るんですけど〜。そこを何とかご機嫌を直して頂いて、しばし休憩。もこさんもいたくお気に入りの様子。さっそく富山でライブをやる話などで盛り上がる。よろしくお願いしますよ、裏バンマス兼広報部長!
食後、思ったほどでれっとなることなく集中力も復活できそうなので、どんどん進めることにする。この調子だとあと二曲くらいいけるかも??
次の曲はmasaの新曲「In The Field」。ここからはSOPRANO SAXを吹く。今回は、当初の予定では下手するとSOPRANOのほうが割合が多くなりそうだった。いくら何でもそれはね、ってことで「The Most Dangerous Zone」は当日になってALTOに変更した。どちらがメインということでもないのだが...楽曲もSOPRANOのイメージの曲が増えたのは確かだ。自分もSOPRANOをどんどん好きになっている。このままケニー・Gの路線、行きますか?!
話を戻すと、この曲はキャッチーなメロディーが印象的なボサノバの佳曲だ。かわいいメロディーとは裏腹に、コードチェンジは非常に難しい。転調に次ぐ転調。この曲は前日SOMETIMEで演奏した。少し慣れておきたかったからだが、やっといてよかった〜〜〜。おかげでワンテイクでOK。いやあ、ますます快調!このまま一日で終わったりして。
だが難曲が待ちかまえていた。自分の曲だ!なぜ僕はいつも自分で自分の首を絞めるのだろう...曲を作るときにmasaのプレイが頭に浮かぶと、「あ、あんなこともできるなあ。あ、これもできる。うひょひょ!」ってなノリになってしまってつい...もともとリズミックなアプローチが大好きな僕としては、masaを最大限生かすものを作りたいと思うのだ。
で、結果できた曲が「Dark Side Of The Force」。ご存じSTAR WARSのダース・ベイダーが陥る「フォースの暗黒面」ってやつですな。曲調もいかにも暗黒面、みたいなダークな感じだし、リズムって色んな可能性があるけどちょっと間違うとこうなっちゃうよ〜ん、という意味も含んでいる奥の深いタイトルなのですぞ!
七拍子のアフロチックなイントロのリズムパターンから始まって、七と四拍子が交互に出てくる。ホールトーンっぽいメロディーのところは6/8。それから... やめときます。理屈なんてどうでもいいもんね。何だか不思議、って感じながらダース・ベイダーの「か〜っぽ〜っ」っていうブレスの音を思い浮かべながら聞くとあら不思議、あなたは宇宙空間を漂う火の鳥に...なんのこっちゃ?
これのエンディングがねえ。絶対苦労するだろうと思ってました。実際、録る前にやったリハーサルテイクでは見事にずれて崩壊。やれやれ、まあ何度かやり直すつもりでとりあえず録りましょ、と言って録ったテイクがあら不思議!見事に一回ではまった〜〜!!いや〜うれしかったことよ。やっぱりこのメンバーはすごい。そしてレコーディングという極限状態でこそ発揮される集中力に脱帽です。
ほんとはね、こんな内輪話なんて暴露しちゃいけないと思うんですよ。でも、何か今回とってもうれしかったので報告しちゃいます。自分の曲が思った百倍くらいのいい曲になっていく様を見ているとほんとに共演者に恵まれたなあ、と思うのですよ。
ここで初日終了。時刻は22:00。いやあ、お疲れさまでした!これほどスムーズに行くとはねえ。しかもみんなで積極的にいろんなアイデアを付け加えながらふくらませていく作業ができた。疲れも見せず、全七曲。明日がめっちゃくちゃ楽になりました。あと二、三曲でおしまいなのだ。心の余裕が違う。やり直しも好きなだけできるし。
ラフミックスのダビングを兼ねてシャンパンで乾杯しつつプレイバックを聴く。最初の曲などは、もう遠い昔のことのように思える。思えば遠くへ来たもんだ、と。冗談はともかく、プレイバックもなかなかいい感じだ。家でもう一度くつろぎながら聴いてみよう。
23:00すぎ、互いの健闘をたたえ合い、明日の健闘を誓い合い、お疲れさま。ゆっくり休みましょう!!
[Day 2]
さて、二日目。夕べ帰ってからMDをゆっくり聴いてみた。予想以上にいい雰囲気が出ている気がする。明らかに一枚目と雰囲気が変わっている。ごりごりな荒削りな魅力からしっとり静かな中で熱く燃える魅力への変化、と言えばいいだろうか。ま、これはあくまで僕の感じ方。皆さんがどう感じるか、リリースされたらぜひ感想を寄せてください。
この日は石井彰が夜仕事なので、六時までには終わらせなければならない。といっても、前日七曲収録しているので予定ではあと二曲。余裕を持って録れる。13:00スタジオ入り。ほぼ定刻に全員集まり、ゆっくりくつろぎながら徐々に集中力を高めていく。MDをもって帰らなかったmasa以外は前日のプレイを聴いてみたようだ。一様に満足げだ。
14:00最初の曲を録音開始。僕の作品でSLASH!時代にも演奏していた曲「Dec.2」。12/2に出来たのでこのタイトルにした。僕には珍しいバラードナンバーだ。今回、これを入れるにあたってキーやメロディー、コードなど若干手直しし、使用楽器もAltoからSopranoに替えてみた。そうしたところ、実にいい雰囲気が出るようになった。リハーサルのとき、「いい曲っすね」と信ちゃんがぼそっと言ってくれたのがとってもうれしかった。一度リハしてみてやや長いのでソロの構成を変えて、本番スタート。バラードナンバーは何度もやりたくない。これは前作の「C'est le Vent,Betty」のときにも決めていたことだ。思いを込めてひとつのテイクにそそぎ込む、その姿勢を変えたくない。今回もワンテイクでOK。いい感じの曲に仕上がったと思う。
早くも一曲終わり、残すところあと一曲。最近レパートリーに入っている僕の曲「Orpheus」だ。この曲は、去年の六月に来日したBranford Marsalisに捧げた曲。このときの彼はクラシックの演奏家として来日した。ジャズ・クラシックの両面で活躍する数少ないミュージシャンだ。その時、彼と一緒に来日したのが「オルフェウス管弦楽団」。その時の演奏にインスパイアされてできた曲なので、彼等に敬意を表してこのタイトルにしたのだ。
アップテンポのビートにベースの重厚なパターンが重なって荘厳な雰囲気を醸し出す。テーマのメロディーはクラシック音楽をイメージしてみた。ブルースの変形のようなソロチェンジ。エンディングではまたまたちょっと仕掛けがしてあって、masaのドラムソロが炸裂!手応えあり!の一曲になった。これも2テイクでOK。あっという間に全て終了してしまった。まだ時刻は16:00前。いやあ今回はほんとにスムーズだった。やはり一年間レギュラーグループとして活動した成果がここに現れた。
MDにダビングしてもらう間にビールとワインで乾杯。ほんの少しのアルコールで酔っぱらってしまった。なんだかんだ言って気が張っていたのだなあ...はああ疲れた。だが心地よい疲れだ。メンバーに感謝感謝。素晴らしいメンバーに囲まれてほんっとに幸せだ。
最後にエンジニア広兼氏、EWE高見氏、ローディー小倉君、裏バンマスもこさん、ほか全てのスタッフの方々に御礼申し上げます。アルバムリリースは六月下旬を予定しています。ご期待ください!!